文字組みアキ量の[詳細設定]は、InDesignの設定項目のなかでも、もっとも重要な項目のひとつです。 一見むずかしそうにみえますが、原理(構造)を知ってしまえば、それほどむずかしくはありません。
ただ、[不思議な文字組・中黒が中央にならない!]で説明しましたが、なぜそうなるのかわからない文字組になってしまうことがあります。なぜそうなるのかわからないのは、わたしたちの能力不足なのかもしれませんが。いずれにしても、新規文字組アキ量設定を作成したときは、正確に組めるかどうかを十分に試してから、実際の組版に使用してください。
それともうひとつ留意点を。日本の活版印刷時代から積み重ねてきた組版ルールを知らずに設定すると、とても読みにくい文字組みになってしまうことがあります。とは言っても、活版印刷時代の組版ルールにしばられすぎているのも合理的ではありません。DTPによる組版には、活版印刷時代の組版よりも、もっと読みやすい組版ルールがあるはずだと、わたしたちは考えています。
ですので、ここで紹介する文字組みは、活版印刷時代の組版ルールから少しだけはずれています。たとえば、活版印刷時代の組版ルールでは、字間調整が必要な場合、おもに句読点や括弧類を4分アキかベタ組みなどにして調整することになっていました。しかし、BOOKHOUSEの設定では、約物以外の文字のアキ量も変更して、字間の調整箇所を分散し、なるべく均等なアキ量になるよう設定しています。
以下に示す「BOOKHOUSEの文字組み」が読みやすいかどうかは意見がわかれるところでしょう。ですので、この文字組みアキ量を使用する場合は、その点を考慮して、十分に検証してからお使いください。
【補足】 | 活版印刷の場合、字間をあけるときは、一般に「込め物(こめもの)」と呼ばれる金属片を活字と活字のあいだに入れて調整します。全角以上のものを「クワタ」、半角以下のものを「スペース」と呼びます。スペースには「2分」「3分」 「4分」「5分」などがあります。行間のアキ量を調整する詰め物は「インテル」と言います。 |
●設定の準備
[詳細設定]を始めるまえに以下のことを決めてください。
▶優先度
字間調整が必要な場合、どこを最初に調整するかを決めます。
「1〜9」と「なし」の10段階で指定します。「1」に指定した項目から順に処理されて、どうしても行長がそろわない場合は、いちばん最後に「なし」の項目が処理されます。この優先度によって同じアキ量でも、文字組が大きく変わってしまうことがあるので、注意が必要です。
デフォルトの文字組アキ量設定と、それを複製して優先度をすこしだけ変えた見本組を使って、できるだけわかりやすく説明してみます。
下の図はデフォルトの文字組アキ量設定[行末約物全角/半角]です。
上の図[行末約物全角/半角]を複製して、句点類の優先度だけを「1」から「なし」に変更してみます。
上の図版の右側にある見本組をみてください。いずれもアキ量はデフォルトのままです。
句点類の優先度を「1」から「なし」に変更しただけなのに、見本組のように文字組が違ってしまいます。違っているのは[始め括弧類]の前のアキです。[行末約物全角/半角]は2分アキに、[行末約物全角/半角のコピー]はベタになっています。
下の図をみてください。[行末約物全角/半角のコピー]の詳細設定[始め括弧類]にある[上記以外の和字]の優先度が「3」になっています。行末の[句点類]の優先度を「なし」に、つまり優先度を下げたために、優先度が上位の[始め括弧類]のアキ量が先に調整されて、括弧の前が字間が「0%」になってしまったわけです。
このように優先度を少し変えただけで、文字組が変わってしまうことがあります。
▶BOOKHOUSEの優先度
BOOKHOUSEでは以下のように優先度を設定しています。
▶句読点や括弧類のアキ量
句読点や括弧類の最小アキ量を決めます。デフォルトの文字組みアキ量は、句読点や括弧類などをベ タ(最小0%)まで詰めるように設定されていますが、ベタになると、とても読みにくいとわたしたちは考えています。くわしくは「文字組みアキ量設定→新しい文字組みセットを作成する理由」の2行目「ABC」の括弧をご覧ください。
句読点 |
アキ量を「最小50%/最適50%/最大75%」に設定しました。 ちなみに、文章の良し悪しは句読点の使い方が大きく影響する、と言われています。文字組も同じで、句読点はきちんとブレス(息つぎ)ができるよう間をあけるべきだと、わたしたちは考えています。よほどのことがないかぎり句読点をベタにすることはありません。 参考までに[行末約物全角/半角]の設定は、読点の後ろのアキ量が「最小0%/最適50%/最大50%」に、優先度が「2」になっています。この設定だと、字間調節が必要なとき、かなりの確率で読点のあとが詰められてしまいます。 |
括弧類 |
括弧類もベタになると読みにくいと思うので、一部の例外を除いて、アキ量を「最小25%/最適50%/最大75%」に設定しました。 括弧類の後は「50%固定」にするという考え方もあるので、[終わりかぎ括弧]と[その他の終わり括弧]のアキ量を「最小50%/最適50%/最大75%」、 つまり「50%(2分)アキ」以下にはならないように設定してみたこともあるのですが、字間を詰めて行長を調整する場合、ほかの文字が詰まっているのに括弧のアキだけが「50%アキ」になっていると、読みにくいというか、そこだけ字間が広すぎて、読んでいる流れが止まってしまうように感じました。そのため「最小25%」にしました。 |
▶最大アキ量について
デフォルトでは平仮名などの最大アキ量は「100%」ですが、長い欧文などが行末にきて字間が「最大アキ量」になると、ほかの行との違いが目立ちすぎるため修正しなければなりません。それはこれから説明する「BOOKHOUSEの文字組み」の最大アキ量でも同じです。いずれにしても、最大アキ量近くまで字間が広がったら修正しなければならないのですから、デフォルトのままでもかまわないのかもしれません。ただ、BOOKHOUSEでは、「H&J違反」をONに変更しています。100%(全角)アキになるまで「H&J違反」の警告が表示されないのでは、ONにしている意味がありません。そのため最大アキ量を「50%」に設定してあります。「50%」でも、最大アキ量近くになると文字の流れが不自然になるので、いずれにしても修正しなければならないのですが。
●詳細設定の設定項目
基本設定の画面の右下にある赤枠内[詳細設定]をクリックすると[詳細設定]画面に移行します。
下の図が[詳細設定]画面です。上から2行目の[前の文字クラス]の横にある小さな上下の三角形をクリックすると[後の文字クラス]に切り替わります。また、その下の赤枠内にあるグレーの三角形をクリックすると、 三角形が下向きになって、[始め括弧類]などの「類」に含まれる項目(始めかぎ括弧・始め丸括弧・その他の始め括弧など)が表示されます。
[文字クラス]は、似た用途や意味をもつ文字や約物をまとめたもので、クラスに含まれる文字を別のクラスに変更することはできません。たとえば、上の図の[始めかぎ括弧]には、「かぎ括弧」と 「二重かぎ括弧」が含まれています。前述の「文字組アキ量では解決できないフォントの問題」で説明したように、リュウミンProの場合、「かぎ括弧」と「二重かぎ括弧」ではフォントデザインが異なります。それでは不揃いにみえるので、別々にアキ量に設定したい(別のクラスにしたい)と思っても、それはできません。
[前の文字クラス]や[後の文字クラス]には以下の項目があります。
[始め括弧類][終わり括弧類][読点類][句点類][中点類]のように「××類」と表示されている項目の多くは、その下の1字下げになった項目全部のアキ量を一括して設定することができます。
たとえば[始め括弧類]のアキ量を「25%」に設定すると、それに含まれる[始めかぎ括弧][始め丸括弧][その他の始め括弧]のアキ量もすべて「25%」になるということです。
上記の1字下げになっている項目は、別々に設定することもできます。下の図は[前の文字クラス] の[始めかぎ括弧]の設定画面です。[始め括弧類]の左横にある小さな三角形をクリックしてください。[始めかぎ括弧][始め丸括弧][その他の始め括弧]と1字下げになっている項目が表示されます。これらの項目を個別に設定することができます。
●詳細設定の基本的な設定方法
それでは[詳細設定]の基本的な設定方法を説明します。[前の文字クラス]の[括弧類]を例にします。
詳細設定……始め括弧類
まず最初に[前の文字クラス]の[始め括弧類]をみてみましょう。[中点類]とのアキ量が「最小25%/最適25%/最大25%」になっています。また[区切り約物]以下の最大アキ量が「100%」や 「0%」になっています(赤枠内参照)。これを変更します。優先度も変更します。
【注意】 | 中点類の最小アキ量が赤字になっているのは、基本設定で[行末受け約物全角/半角]のデフォルトの「25%(0%〜25%)」というアキ量を「25%固定」に変更したからです。新規文字組アキ量設定を作成するとき、元の文字組アキ量に変更をくわえると、それを保存するまで赤字で表示されます。 |
下の図が[前の文字クラス]の[始め括弧類]の設定を変更したものです。
中点類には[中黒]と[コロン類]が含まれています。この[中黒]と[コロン類]のアキ量を別々に設定したいので、変更するまえに[中点類]の左横にある小さな三角形をクリックして、[中黒]
と[コロン類]を表示しておきます。
【注意】 | 上記の図版は全体をみるために画像を加工してあります。 |
▶始め括弧類・終わり括弧類の最大アキ量
[始め括弧類]の最大アキ量を「12.5%」に、[終わり括弧類]の最大アキ量を「25%」に変更しました。字間を広げて調整する場合、連続する括弧類の字間も多少広げたほうが、文字の流れが自然にみえます。
▶中黒/コロン
[中黒のアキ量を「最小12.5%/最適12.5%/最大50%」に、つまり原則「12.5%(8分アキ)」に変更しました。[中点類]のアキ量は、一般的に「25%(前後4分アキ=中黒を全角どり)」ですが、それだと間の抜けた文字組みにみえると思います。しかし、これは好みの問題ですので、最適のアキ量はデフォルトのまま「25%」でもかまいません。ただし、その場合も最小アキ量を「12.5%」にしたほうが字間がそろってみえます。
[コロン類]のアキ量を「最小25%/最適25%/最大50%」に、つまり「25%(4分アキ)」以下にならないように変更しました。
▶区切り約物などの最大アキ量
[区切り約物]以降の最大アキ量を「50%」に変更しました。
デフォルトでは「0%」か「100%」になっていますが、なぜデフォルト値を「0%」や「100%」にしたのか、わたしたちにはその理由がわかりませんでした。
▶優先度
優先度も上の図のように変更しました。多くのアキ量の優先度を「3」にして、字間を調整する必要がある場合、できるだけ多くの箇所で調整して字間が均等にみえるように設定しました。デフォルトの優先度のように「なし」を多くすると、いちばん最後に調整するアキ量(どうしても行長が揃わないので仕方なく調整せざるをえない最後の手段)が指定できなくなるからです。
これで[始め括弧類]はOKです。
詳細設定……終わり括弧類
つぎは[前の文字クラス]の[終わり括弧類]です。これは少し面倒です。
まず、[始め括弧類]と[中点類]の左横にある小さなグレーの三角形をクリックして、[始めかぎ括弧][始め丸括弧][その他の始め括弧]、そして[中黒][コロン類]を表示させてください。
つぎに各項目を下の図の赤字のように変更します。
【注意】 | 上記の図版は全体をみるために画像を加工してあります。 |
▶始めかぎ括弧・その他の始め括弧・区切り約物など
デフォルトの設定では、[終わり括弧類]の後に続く[始め括弧類]や[区切り約物]などのアキ量は「最小0%/最適50%/最大50%」ですが、括弧の後はあまり詰めたくないので「最小25%/最適50
%/最大75%」にしました。活版印刷時代の組版ルールでも字間の調整が必要な場合には、一般にベタか4分アキにするので、InDesignのデフォルトの最小アキ量「0%」は、組版ルールにのっとった設定といえます。ですが、「0%」だと詰まりすぎて読みにくいと、わたしたちは考えています。
また、デフォルトの最大アキ量は「50%」ですが、字間をひろげて行長を調整する場合、ほかの文字の字間がひらいているのに、括弧類だけがアキ量「50%」に固定されていると不揃いにみえます。ですので[最大75%]に設定しました。
▶始め丸括弧
[始め丸括弧]のアキ量は、[始めかぎ括弧」や「その他の始め括弧」と異なり、「最小12.5%/最適25%/最大75%」にしました。
同じ括弧類(始めかぎ括弧・始め丸括弧・その他の始め括弧)で異なったアキ量を設定するのは異論があると思います。しかし、わたしたちは「かぎ括弧」などにくらべると「丸括弧(パーレン)」内の文章は、本文の補足的説明の場合が多いので、ほかの括弧よりも字間を詰めたほうが(前の文章との連続性を強くしたほうが)読みやすいと考えます。この丸括弧のアキ量は、平仮名や漢字とのアキ量など、ほかのアキ量でも同じ考えで統一しています。
▶終わり括弧類・読点・句点・和字間隔の最大アキ量
[終わり括弧類][読点][句点][和字間隔]の最大アキ量を「12.5%」にしました。
ここは原則的にはベタなのですが、どうしても字間を広げて調整しなければならないときの最後の手段として、最大アキ量を「12.5%」にしました。ですので、優先度は「なし」のままです。
▶中黒
[中黒]は、漢字や仮名と中黒のアキを「12.5%」にするため、括弧の後の中黒は、それより「16分=6.25%」広くして「18.75%」にしました。
デフォルトは「最小0%/最適25%/最大25%」ですから、「最小18.5%/最適18.5%/最大50%」にするのは異論があるかもしれません。 しかし、実際に組んでみると、「18.75%」のほうが読みやすいし、文字組としても美しいと思います。
▶分離禁止文字・行頭禁則和字の最小アキ量
[分離禁止文字]や[行頭禁則和字]のアキ量を「最小25%/最適50%/最大75%」にしました。
ほかの約物や記号よりも狭くしたのは、そのほうが文章の流れがスムーズに感じるからです。ただ、
このあたりになると好みの問題も大きいので、ご自分でいろいろ試してみることをおすすめします。
詳細設定……終わりかぎ括弧
上記の[終わりかぎ括弧類]の設定をすると、1字下げの項目[終わりかぎ括弧][終わりの丸括弧] [その他の終わり括弧]が同じ設定になります。下記の図で確認してみてください。
【注意】 | 上記の図版は全体をみるために画像を加工してあります。 |
詳細設定……終わり丸括弧
[終わり括弧類]と同じ設定になっていますが、下の図の赤字のように変更します。[終わり丸括弧]は、[終わりかぎ括弧]や[その他の終わり括弧]とアキ量を変えます。前述したように本文との連続性を高めるための設定です。
右の図をみてください。右側の見本組み[行末約物全角/半角]のアキ量は「最小0%/最適50%/最大50%」です。この設定だと、BOOKHOUSEの設定とくらべて、[終わり丸括弧]の後があきすぎているように思います。つまり流れるように読めない、[終わり丸括弧]の後で一呼吸おいてしまうような文字組だと思います。
でも、これは好みの問題も大きいので、ほかの括弧類の設定と同じでもかまいません。
【注意】 | 上記の図版は全体をみるために画像を加工してあります。 |
詳細設定……その他の終わり括弧
上記の[終わりかぎ括弧]と同じように、[終わり括弧類]の設定をすると[その他の終わり括弧] も同じ設定になります。下記の図で確認してみてください。
【注意】 | 上記の図版は全体をみるために画像を加工してあります。 |
以上で[文字組アキ量設定]の基本的な設定方法がおわかりになったでしょうか。やはり、わかりにくいですかね。
[文字組アキ量設定]は、とくに「優先度」は、あまり変更しないほうがいいという意見もありますが、せっかくある機能ですから、いろいろ試してみることをおすすめします。ただ、実際に仕事で使うときは、十分に気をつけてください。さいわいBOOKHOUSEではそのような経験はありませんが、
「とんでもない組みになった」という話も聞きます。
なお、上記の文字組アキ量設定は、本文組用ですので、見出しなどはもっとアキ量を小さく設定する必要があります。たとえば、句読点をもっと詰めたり。括弧類を8分アキ(12.5%)や4分アキ(25
%)にしたりすると、きれいな文字組になります。 ですので、本文用と見出し用の2種類の文字組アキ量設定を用意しておくようにします。
最後に、次章の【試作・前の文字クラス】や【試作・後の文字クラス】に、上記の括弧類も含めて、
句読点や中点類、記号類や平仮名などの「詳細設定の試作」を掲載しておきます。参考になさってください。くりかえしますが、前述したように、ミスがある可能性があります。十分検証してからお使いください。