文字組みアキ量の設定は、InDesignのなかで最大の難所ともいえます。でも、逆に言えば、もっとも面白いところでもあるでしょう。下の図に示したようにInDesignには、デフォルトで14種類の文字組みアキ量セットが用意されています。
ですが、わたしたちBOOKHOUSEは、自分たちでカスタマイズした設定を使用しています。その理由は後述します。
文字組みアキ量設定は、何回でも作成したり削除したりすることができるので、楽しみながら挑戦してみてください。面白いですよ。
【注意】 | 上記の[文字組みアキ量設定]には、デフォルトの14種類の組見本に、[文字組み設定:なし]と[BOOKHOUSE設定]の2つの組見本が加えてあります。また、ぶら下がり方式は「なし」に、禁則調整方式は「調整量を優先」に設定してあります。 |
●組版ルールの基礎を知る
文字組みアキ量設定の説明を始めるまえに、注意してほしいことをつけくわえます。
それは、文字組みアキ量をどんなに正確に設定したとしても、それですべてが自動的に、かつ完璧に文字組みされるわけではないということです。組み上がったあと、可読性をよくするために、多少なり修正をする必要があります。それには組版ルールの基礎を知らなければなりません。しかし、ここでそのすべてを説明することはできません。「組版ルール」で検索するといろいろなサイトがみつかりますので、参考にしてください。
とは言っても、わたしたちは、ルールにしばられることなく、どれが一番読みやすいか……という目(感覚)を育てることがもっとも大切だと考えています。組版ルールの基礎を知ったうえで、たとえ組版ルールからはずれていても、あえて「こちらのほうが読みやすい」と選ぶことです。
また、文字組みの規則は、出版社によっても異なりますし、同じ出版社でも担当編集者によって異なる場合もあります。たとえば、段落1字下げですが、右上の図に示したように段落の行頭に始めの括弧類がきた場合、組み方には「段落1字下げ」「段落1字下げ(起こし全角)」「段落1字下げ(起こし食い込み)」などがあります。一般的には「段落1字下げ」と「段落1字下げ(起こし食い込み)」が多く使われますが、出版社の方針や好みの問題で、どれも正しい組み方です。
●新しい文字組みセットを作成する理由
InDesignのデフォルトの文字組みセットでもかなりきちんとした文字組みができます。ただし、右の「行末約物半角」の見本組みをみればわかるように、句読点やカギ括弧が詰まりすぎたり、丸括弧と丸括弧のあいだが広すぎたり、可読性に多少問題が起きる場合があります。行長が揃わない場合は、句読点や括弧などのアキで調整するのが組版の基本ですから、「行末約物半角」は組版ルールに則った正しい組版といえます。でも、これでは、読みやすい文字組みとはいえません。
句読点や括弧などのアキが詰まりすぎたり広すぎたりするのを回避するためには、新しい[文字組みアキ量]を作成しなければなりません。
図の右側にある「BOOKHOUSE設定」という見本組は、わたしたちが使用している設定です。句読点や括弧などのアキを「行末約物半角」と、よく見くらべてください。とくに1行目の読点や丸括弧「(さ)(し)」の前後のアキです。「行末約物半角」のほうは、読点が詰まっているのに、丸括弧が連続しているところは広すぎます。
●文字組アキ量では解決できないフォントの問題
文字組みアキ量設定では調整できない問題もあります。右の図は、フォントは違いますが、いずれも「かぎ括弧」と「二重かぎ括弧」の組み合わせです。いちばん右側にある「A-OTFリュウミン Pro」に注意してください。
「かぎ括弧」のあとに「二重かぎ括弧」が続いた場合と、逆に「二重かぎ括弧」のあとに「かぎ括弧」が続いた場合とでは、括弧の位置(字間)に違いがあります。
「かぎ括弧→二重かぎ括弧」と続いたほうが、「二重かぎ括弧→かぎ括弧」と続いた場合よりも、括弧同士のアキが広くみえます。黒四角と括弧のアキは「かぎ括弧」のほうが「二重かぎ括弧」よりも狭くみえます。過去に一度だけ、このような「かぎ括弧→二重かぎ括弧」と「二重かぎ括弧→かぎ括弧」が横に並んでしまい、とても困ったことがあります。「ヒラギノ」や「小塚」では、そのような差はみられません。
これは文字組みアキ量設定では調整できません。なぜなら「かぎ括弧」と「二重かぎ括弧」は、同じ
「文字クラス」に含まれているからです(文字クラスについては[詳細設定]を参照してください)。
つまり、「かぎ括弧」のアキ量を変えると、 同じ文字クラスに属する「二重かぎ括弧」も同じアキ量になるということです。これを回避するには[文字スタイル]で調整するしかありません。
ただし、フォントにはバージョンがあるので、現在販売されている「リュウミン Pro」も同じかどうかまでは確認していません。
●不思議な文字組[中黒が中央にならない!]
以下は、ちょっと面倒な、というか、複雑でわかりにくい説明になってしまいます。下の図をみてください。3組とも行末に欧文があるため、欧文を送りだし、字間を広げて行長を調整しています。文字組みアキ量設定は、3組ともデフォルトの「行末約物半角」です。
右端の「日本語」という文字組みを除いて、「東・西」の「中黒」も、「かぎ括弧+¥」の「円マーク」
も中央になっていません。なぜ、中央にならないのか、わたしたちにはその理由がわかりませんでした。
そこで、字間を広げて行長を調整する場合、どこで調整するのかを調べてみました。が、結局、なぜ中央にこないのかという理由はわかりません。以下は「わからなかった」という報告なので興味のない方はとばして読んでください。
デフォルトの「行末約物半角」の設定は以下のとおりです。
日本語 | 漢字の最大アキ量は、「前の文字クラス」「後の文字クラス」とも「100%」、 つまり全角アキまで許容しています。優先度は「なし」です。 |
東・西 | 中黒と漢字のアキ量は、「前の文字クラス」「後の文字クラス」とも「最小0% /最適25%/最大25%」です。優先度は「1」です。 |
かぎ括弧+円マーク | 始め括弧と円マークのアキ量は、「最小0%/最適0%/最大100%」、円マークと終わり括弧は「最小0%/最適0%/最大0%」です。優先度は「なし」です。 |
「日本語」の「本」という文字をカーソルで選択すると、漢字のアキ量設定が「前の文字クラス」と
「後の文字クラス」で同じなのにもかかわらず、薄い緑色で示したように「本」の前だけが選択されて広くなっています。「語」という文字も薄い黄色で示したように前だけが広くなっています。つまり、InDesignのアキ量は、最大アキ量以内ならば原則的に「文字の前で調整される」されるようにみえます。
最大アキ量で調整できない場合は、真中にある「東・西」のアキをみると、最大アキ量の「25%」を超えて中黒の後で調整しているように推測できます。「西」をカーソルで選択すると、薄い黄色の部分全部が選択されます。
ところが、左端にある「円マーク」をみると、円マークの前のアキは最大アキ量の「100%」になっていますが、後のアキは最大アキ量の「0%」ではなく、薄い緑色で示したように「50%」多くカーソルが選択しています。しかも、始めの括弧の後(薄い朱色の部分)も「50%」余分にアキが生じています。アキ量設定が「行末約物半角」だからかと思い、行長を変えて行末にもう1字増やしたり、アキ量設定を変えてみたりしましたが、結果は同じでした。
最大アキ量で調整できない場合、中黒と同じ調整方法ならば、後ろの文字(薄い黄色で示した終わり括弧)の前を「100%」あけて調整されるはずです。 そうすれば、薄い朱色の部分が「-50%」になり、円マークが天地中央になるはずです。
反対に、 円マークの調整方法が基準ならば、中黒は前後に「50%」ずつ余分にアキを作り、中黒が天地中央にくるはずです。
なぜそうならないのか、わたしたちには、その理由がわかりませんでした。
【円マークなどがなぜ中央にならないか…について、「なんでやねんDTP」さんからご教示をいただきました。末尾の[追記]を参照してください。】
ついでにいうと、中黒と同じ文字セット「中点類」に入っている「コロン」も中央になりません。また、括弧にはさまれていると、円マークと同じ文字セット「前置省略記号」に入っている全角の「$」や「£」、「後置省略記号」に入っている「%」
や「㎝」なども中央にならないようです。これは、デフォルトの文字組みアキ量設定「行末約物半角」も「約物全角」も「行末受け約物全角/半角」も「行末句点全角」も、すべて同じです。
ちなみに、「H&J違反」にチェックをいれると、最後の「円マーク」の文字組にだけ「H&J違反」の警告を示すハイライト表示になります。真中の「中黒と漢字」の最大アキ量は「25%」で、最大アキ量を超えているのですから、警告を示すハイライト表示になるはずなのですが、そうなりません。これも理由がわかりませんでした。
なお、上の図のような文字組になるのは、行末の欧文などを追い出し処理にした場合だけでなく、行揃えを[両端揃え]にしたときも、同様の結果になります。
ただし、[字取り](上記の例でいうと「東・西」を4字取り)にした場合は、天地中央になります。
中黒に関しては、BOOKHOUSEが独自に作成した文字組アキ量設定でも、最大アキ量を超えた場合は中央になりません。文字組アキ量設定を変更して天地中央にすることもできますが、それには難点があります。くわしくは後述する[前の文字クラス→中黒]で説明します。
「円マーク」は、BOOKHOUSEのアキ量設定だと、なにもしなくても天地中央にきます。そういう意味では、中黒のアキ量は例外的というか、非常にわかりにくい設定になっていると思います。
【追記】 |
「なんでやねんDTP」さんのご教示は以下のとおりです。 …………………………………………………………………………………… 「円マーク」の疑問は、ご指摘のように括弧類の内側のアキ量最大値が前・後で異なっており、その範囲で調整した残りを各字間に割り振ったと考えればすんなり理解できると思います。つまり、100%+50%と0%+50%の調整量となったワケです。(これは分離禁止文字/前置省略記号/後置省略記号に共通しますね) 「中黒」の場合は「バグ」であろうと思われます。 拙ブログに「InDesignの文字組みアキ量設定の4大バグ」として挙げている中の最後の項目 「●隠されたアキ量の問題(設定のカスタマイズは不可能)」をご参照ください。 → http://d.hatena.ne.jp/works014/20120305 …………………………………………………………………………………… つまり「円マークと括弧類のアキ」は、円マークの「最大アキ量100%」と終わりの括弧の「最大アキ量0%」の違いによって生じる不揃いということです。その最大アキ量に、50%ずつ均等にアキが割り振られるので、中央にこないというわけです。ご教示、感謝いたします。(2015.08.21) |