このページでは「装丁の基本的な用語や各部の名称」について説明します。まずは一般的な上製本の各部の名称を簡単に図解しておきます。
上記の名称のうち、デザイナーが指定する必要がある用紙や部材、および専門的と思われる用語について説明します。
【補足】 | 編集や組版の世界では「本文」は「ほんぶん」ではなく、「ほんもん」といいます。「本文組=ほんもんぐみ」「本文用紙=ほんもんようし」などです。ただし、文章を読むときなどは、たとえば「注釈ではなく本文(ぼんぶん)に書いてある」というように、「ほんぶん」と使いわけています。 |
表紙のいちばん最初、タイトルなどが印刷されている面を「表1」または単に「表紙」といい、その裏を「表2」といいます。
表紙の最後の面を「表4」または「裏表紙」といい、その裏を「表3」といいます。
表紙の版下の作成方法については「表紙の版下制作……束見本を測る」で詳しく説明します。
【補足】 | 書籍の表紙は英語では「book cover」といい、表紙の上にかかっているカバーは「book jacket」というそうです。欧米ではブックカバー自体が基本的に使われていないとのこと。日本独特のものなのですね。 |
表紙を貼り合わせる「芯材」について説明します。
芯材は、一般的に「板紙」が使用されます。板紙には「チップボール」や「黄板(きいた)」などがあります。たとえば「チップボール」の場合、下記のように、さまざまな厚さの板紙が用意されています。
8号:0.56mm
11号:0.80mm
13号:0.96mm
17号:1.25mm
26号:1.92mm
32号:2.40mm
45号:3.36mm
わたしたちは、通常、約2mm程度の厚さの「特洸黄板(とっこうきいた)28号 73kg」や「ONボール艶 #28 F/Y 73kg」を使用しています。
手のひらサイズの小型本など特殊な製本をする場合は、普通の四六判の書籍と同じ芯材の厚さだと厚すぎるので、デザイナーと出版社で相談して決めます。
板紙の見本帳は、装丁の専門家ならばほとんどが持っていると思いますが、ちょっと地味な部材なので持っていない方もいるかもしれません。見本帳がない場合は、製本所や印刷所には必ずありますので、相談してみてください。販売しているかどうかは知りませんが、普通は、紙屋さんから提供してもらいます。
なお、通常、板紙は「100枚」単位で注文します。この100枚単位を「ボード連(BR)」と表記します。読み方は「ぼーどれん」です。
芯材にボールを使用しない「薄表紙」という製本方法もあります。薄表紙には、表紙の天と地と小口側を中に折りたたむフランス装や、芯材に薄い地券紙をもちいた製本方法などがあります。
多くの本製本の表紙には、背の近くに「溝(みぞ)」がついています。溝は、表紙を開きやすくするためにあります。
表紙のトンボを切るときは、この溝の凹みにあわせて、寸法を余分につけなければなりません。溝の凹みに必要な寸法は、サイトで調べると、7〜8mmとしているところもありますし、9mmや10mmとしているところもあります。
BOOKHOUSEでは「束見本(つかみほん)」から溝の寸法をわりだしています。このほうがより正確だと思うので、その方法を後ほど紹介します。
なお、上製本には、「溝付き」と、溝を付けない「突き付け」の2種類があります。
表紙の天と地と小口側が、本文のサイズよりも少し大きくなっているところを「チリ」といいます。
チリの幅は、一般に2mmから3mmといわれていますが、わたしたちの経験では3mmにしている製本所が多いように思います。
それ以外のチリ幅にしたい場合は、束見本を作ってくれる製本所、または印刷所にチリの幅を指定しなければなりません。
束(つか)は、表紙を除いた本の厚さ、本文部分のみの本の厚さです。
以下の計算式で求められますが、あくまでも計算上の数値で、正確ではありません。
束の厚さ(mm)=1枚の紙厚(mm)×(ページ数÷2)
実際は「束見本(つかみほん)」を作って背幅を測ります。
さきほど「束は本文部分のみの厚さ」と書きましたが、ちょっと曖昧で、装丁デザインの世界では、表紙を含めた本の厚さを「束」ということのほうが多いように思います。
「束何mm」といわれたときは、「本文部分のみの厚さ」を指しているのか、「背幅」を指しているのか、確認する必要があります。
束見本の発注方法は後述します。
花布(はなぎれ)は、背表紙と本文の間に貼り合わされている小さな布のことです。天と地の2箇所についています。かつては「折丁(おりちょう)」に糸で縫いつけて本を丈夫にする役割を持っていたそうですが、現在ではほとんどの場合、装飾用です。ヘッドバンド(headband・ヘドバン)ともいわれます。
花布の見本帳は、製本所にもおいてありますが、「伊藤信男商店」や「望月マテリアル」などから購入することもできます。指定するときは「伊藤No.29」や「望月A25」などと指定します。
なお、スピン(しおり・栞)も、花布と同じく、「伊藤」や「望月」などの見本帳があるので、そこから指定します。
見返(みかえし)は、本文ページと表紙とをつなぐための紙で、本のオモテ側とウラ側の表紙2箇所に貼り合わせてあります。見返用紙は、本文2ページ分の大きさの紙で、2つ折りにした片面を、オモテ側およびウラ側の表紙の内側(表2と表3)に貼ります。もう片面は、ノド元の数ミリを、扉、または本文に貼り合わせます。表紙に貼ってあるほうの見返を「きき紙」または「力紙」といい、表紙に貼っていないほうの見返を「遊び紙」といいます。
見返しに使われる紙は、一般的には、本文用紙よりもやや厚みのある「タント」などのファンシーペーパーや「色上質紙」がもちいられます。
なお、上製本には見返が必ずありますが、並製本の場合は、見返のあるものと、ないものがあります。文庫本は、ほとんどの場合、見返がついていません。
見返については「見返と扉」を参照してください。
表紙や見返を開いて最初に現れるページを「本扉(ほんとびら)」といい、多くの場合、タイトルや著者名などが印刷されています。ページ数が多い本の場合は、本文の途中、章の区切りなどに扉を挿入することがあります。これを「中扉(なかとびら)」といいます。
本扉は「別丁扉(べっちょうとびら)」と「本文共紙扉(ほんもんともがみとびら)」にわかれます。
「別丁扉」は、本文用紙とは別の紙(ファンシーペーパーなど)にタイトルや著者名などを印刷し、それを扉として貼り込んだもので、当然、本文の印刷とは別に、扉だけを特別に印刷しなければなりません。製本段階でも、本文の「折丁」とは別の、1枚(表裏2P)だけの「丁」になります。
「本文共紙扉」は、別の紙ではなく、本文の1ページ目を「扉」にすることです。よくある手法として、扉になるページ全体を「アミ伏せ(平アミ)」にして、本文ページとの差別化を図る方法がとられます。本文共紙扉は、別丁扉よりも諸経費をおさえられるし、ムダな紙を使わないという意味で環境に優しい方法ともいえます。本文共紙でも、いかに素敵な扉にできるか、デザイナーの腕の見せどころです。
扉については「見返と扉」を参照してください。